(前回までのあらすじ)  協調性が無いのはどっちもどっちだった!  チュウレンジャーと四国天王は図らずも一対一の決戦へと突入する!  話数が飛んでるのは深夜枠にいっちゃったのがあるからだ!  戦え! チュウレンジャー!! 第18話 「決意! 男と男の熱き戦い!!」 「久しぶりじゃの、山口」  長身の男がにやりと笑う。  鍛え上げられた、均整のとれた肉体はまさしく戦うためのものなのだろう。  握られた拳の他は丸腰であるというのに、彼の瞳は勝利の自信に満ちていた。 「高知、か。出来ればお前とは戦いたくないものだな……幕末明治の誼もあることだ」 「俺たちが先駆けじゃった時代は終わってしもうた。おんしゃあ賢いき、よぅ分かろう?」  高知の言葉に、山口は切長の目をわずかに細める。  ――冷徹な策士の表情だ。 「地方都市が生き残るためには戦うしかない、か。相変わらず短絡的だな」 「言いなや。けんど、事実じゃ」 「……私にはやらねばならんことがある」  臨戦態勢に入っている高知とは対照的に、山口は溜め息をついてきびすを返す。 「逃げる気か!!」 「もう若くはないんでな。引かせてもらう」  きっぱりと言い切る山口に、高知の表情が鋭さを増す。  だが―― 「そこにいるんだろう、島根。後は任せたぞ」  山口は後方に声を振り向けた。  高知もそれにはっとして振り向く。  大木の影からこちらをうかがっていたらしい人影が、びくりと身をすくませたのが分かった。  山口は、行ってしまった。  狙いをこちらに定めたのか、高知はまっすぐに向かってくる。  ――はぐれてしまった鳥取さんを、探していただけ、なのに。  どうして自分は今、四国髄一の剛の者とさえ称される高知と対峙しているのか。  迫ってくる威圧感に歯の根が合わない。  でも、逃げ出したくはなかった。  どんな事情があったにせよ、山口はこの場を自分に任せたのだ。  腰に下げていた銅剣に震える手をかける。  鈍く光る出雲の神器は、島根の誇りを奮い起たせるものだ。  けれど、そんな島根の決死の思いを、高知は―― 「なんじゃあ、女か?」  あまりにもあっさりと、へし折った。 「…………ち、ちが……っ」  一瞬、何を言われたのかと硬直した。  だがその言葉を理解した瞬間、胸を絞り上げるような苦しさに襲われる。  体格がいい方ではないのは自覚している。  けれど、だからこそ、強くなりたいと思っていたのに――それを全て否定された、気がした。 「……ぅ、」  こみ上げる嗚咽を、必死でこらえる。  泣いては駄目だ。そんなだから、いつまでたっても男らしくなれないままなんだ。  自分にそう言い聞かせて、強く唇を噛む。それでもじくじくと胸が痛んだ。  痛くて、痛くて、どうしようもなく堪えきれず、気付けば島根の頬には涙が伝っていた。 「お、おい! いきなり泣くんはいかんちや!」  狼狽したような高知の声。  呆れられているのだと思うと、恥ずかしさと情けなさで死にそうになる。  もう高知の顔を見ていることも出来なくて、島根は剣を取り落とし、両手で顔を覆った。 「ぅぇ、……っ」 「ああもう! 俺が泣かしたみたいやか!」  ごめんなさい、貴方のせいじゃない、全部自分が悪いんです。  その言葉さえ嗚咽に飲まれて告げることが出来ず、島根が首を横に振った、その時だ。  不意に、肩をぐいと引かれた。 「――っ!」  何事か、と思う暇も無く、島根の身体はすっぽりと高知の腕の中に収まっていた。  突然のことに硬直し、息が止まる。  大きな手のひらがあやすように、とんとんと島根の背を叩いた。 「驚かせてすまんかった。おなごは笑っちゅう方が……って、うん? おんしゃあ、男か?」  抱きすくめた身体の感触に、ようやく気付いた高知が言う。  しかしこの期に及んでまだ疑問系だ。よっぽど女々しく見えているに違いない。  高知の逞しい腕を見るとその勘違いも当然のように思われて、ますます島根は惨めな気持ちになった。  一度は驚きに止まった涙が再びじわりと滲む。  けれども高知はいささか強引に島根の顎に指をかけ、ぐいと持ち上げた。 「ま、どっちでも構いやーせん。笑っちゅう方がいいのは同じやか」  そう言って、高知は顔を上げさせた島根の頬に触れる。  たこのある硬い親指は二、三度涙を拭ったかと思うと、今度は口角へと伸びてきた。 「ふ、ゎ……っ!?」 「ほら、笑え笑え」  両手で頬を包み込むようにして、親指で無理矢理笑みを作らせる。  口元を引っ張られた島根は、間抜けな声を上げた。  突然の行動に驚いて、自分と比べ優に頭一つ分は高い顔を見上げる。  ――蒼天を背景にして、高知はよく日に焼けた顔に屈託の無い笑顔を浮かべていた。  大きな傷があるというのに決して恐ろしげではない、覇気に満ちた優しい笑顔だ。  まるで大型犬のようなその様子が、なんとなく想い人を思い起こさせて、知らず島根の顔が綻ぶ。  それを目にした高知は満足げに笑みを深くして、そこでようやく島根の身体を離した。 「おんしゃあ、島根といおったな」 「は、はい……」 「山口はああ言ったがどうするがで? 俺と戦うか?」  問われた言葉に、島根はびくりと身をすくめる。  その様子を見た高知は、からからと笑った。 「まあ、そうにかぁらん。けんど、ここで勝負を放っても他の連中に顔向け出来んしなあ」 「か、構いません、戦います!」  これ以上呆れられるのは嫌だ。  決死の覚悟で叫んだ島根だったが、高知はそれに苦笑を浮かべる。 「ほがあに怯えて言われてもな。俺の流儀に反する」 「でも……っ」  自分だって、男だ。戦いたい。  そう言おうとして、けれど自分にはそれを言う資格など無いように思えて、島根は俯いた。  またしても黙り込んだ島根に高知も何かを察したのだろう。  一瞬考え込むような顔をして、それから唐突に叫んだ。 「おお、名案だ!」 「は、はい!?」  肩を掴まれ、目前で突然叫ばれて、島根は目を白黒させる。  高知は心底楽しそうな顔のまま、これで解決だと言わんばかりに宣言した。 「男の勝負、大酒対決! どうじゃ!!」  鳥取は走っていた。  山口から入った連絡が不安を募らせる。  ――高知のところに、島根さん一人だけ置いてきたなんて……  自分が徳島相手に手間取っていた間にどうしてそんなことになったのか。  ……何に時間を取られたのかというと、島根にはとても言えないような理由ではあるのだが。  ――無事で、無事でいるだろうか……島根さん!  だが、駆けつけた鳥取が目にしたものは、信じられない光景だった。 「し、ししし島根さんっ!?」  転がる酒瓶、いや、酒樽も混じっている。  凄まじい酒気が漂う中に、折り重なるように倒れる二人の影。  慌てて駆け寄り、島根の腹に載っていた高知の腕と頭を払いのけた。枕にしてんじゃねえよ!! 「しっかり、島根さんっ!!」 「……ん、あれ……鳥取、さん……?」  名を呼びながら揺さぶると、島根はぼんやりと目を開いた。  頬にはまだ赤さが残っていて、焦点もあまり定まっていない。  宴会でもあまり無理をすることの無い島根が、ここまで酔うのも珍しい。  鳥取が唖然としていると、先程体勢を変えられたためか、倒れている高知が呻いた。 「う……お? もう夕方か……」  のっそりと起き上がり、額をさすりながら左右を見渡す。  固まっている鳥取と、その腕に抱えられている島根を見て、一言。 「おんし、なかやかやるのう!」 「あ、ありがとうござい、ます……」  にかっと笑って言う高知に、はにかんだように島根が答える。  ちょっと待て。二人の間に何があったと言うんだ。 「島根さんっ! 何かされたの!?」 「え、あ、あの」 「なんじゃ坊主、人聞きの悪ぃ!」  むっとしたような高知の台詞に、島根が慌てて鳥取の腕を引く。 「しょ、勝負しちょったんです、お酒の!」 「ちんまいくせにいい飲みっぷりだった! 今回は引き分けじゃ!」  豪快に笑う高知はまだ酒臭かった。  だが、それならこちらが心配するようなことはなさそうだ。  鳥取は安堵の溜息をつく。  神事だ御神酒だとしばしば酒をなめている島根は、実は清酒に関してはかなり強い。  米どころの北陸にも負けないザルっぷりだ。  その島根をここまで酔わせただけでも相当なものと言える。  二日酔いはあまり心配していないが、早くつれて帰った方がいいだろう。  そう思って島根を背負おうとした、その時だ。 「――なんじゃあ、おんしが鳥取か?」 「あ、はい、そうですけど……」  高知の口元がにい、と弧を描く。  背筋に冷や汗が伝う、嫌な予感がした。 「島根から聞いちゅうが、おんしも強いにかぁらんな」 「…………へ?」 「酒じゃ、酒!」 「すんません、鳥取さんのこと、ちょっこし喋くぅてしまいました」  すまなそうにしながら、島根が言う。  その口ぶりは可愛らしいが、ちょっと待て今なんと言った。 「い、いや、帰らなくちゃならないので!」 「知らん! ほら、勝負じゃ、勝負!!」  どこからともなく取り出された酒瓶を、ずいと押し付けられる。  逃げなくては、と思うも、 「鳥取さんなら勝てますけん、ね?」  こちらを見上げてにっこりと笑う島根。  自分に関しては全くと言っていいほど自信を持たない島根が、己に信頼を寄せていると思うと。  ――に……っ逃げられるわけないだろー!!  ええいままよ、と覚悟を決めて、鳥取はその酒瓶を受け取った。  酒宴は朝まで続いたらしいが、その決着については当人達も覚えていなかった、という話である。 次回、第19話!! 「Yes! 八人の刺客!!」 お楽しみに! ----------------------------------------------------------------------------------------- 方言おかしかったらごめんなんだぜ