広島×山口 方言超適当でごめん −−−−−−−−−−−−−−−−−−  灯りを消してくれ――そう呟いた声は、普段の姿からは想像できないくらい甘く掠れていた。  聞こえない振りをしてそのまま愛撫を続けると、縋りつくものを求めてさ迷っていた手が不意に伸びて、乱暴に前髪を掴んだ。 「……おい、聞いちょるんか」 「聞こえとる。前髪掴むな」 「だったら――!」  ソファの上で半身を起こした山口を押さえ込むと、広島は壁際のスイッチに手を伸ばした。  ぱちりと音がして、蛍光灯の光が消える。薄いカーテンを閉めて半分開け放した窓からは月光が差し込み、それは二人が倒れこんだソファにまで届いた。 「今夜は満月か……こんだけ明るいと、大して変わらんのう」  大きく肌蹴たシャツの胸元から覗く山口の肌は白く、どこか不健康そうな印象すら受ける。脇腹から手を差し込んでゆるりと撫で上げるとそれだけで、山口は大きく息を吐いて顔を背けた。 「お前、溜まっちょったんか?」 「ふざけるな」  掠れた声に本物の怒気が混じっている。顔を背けたまま、山口は低い声で呟いた。 「そもそも、なんでお前とこんなことになってるんだ――飲んでただけなのに」  方言の消えた口調と低い声は、山口がいつもの調子を取り戻しつつあることを示している。先ほどまでの醜態は酔っていたせいだ――そんな理由で逃げようとしている気配を察して、広島は山口の顎を掴むと強引に自分のほうを向かせた。 「最初に誘ったのはお前じゃろうが」 「――痛い、離せ」 「逃げんなや」  脚で強引に膝を割り、開いた股に膝を押し付ける。  跳ね起きようとする身体をもう片方の腕で強引に抱きこみ、そのままじわじわと膝を動かした。切なげに眉を寄せた山口が、堪えきれずに喉の奥から熱い息を吐く。逃げようとしていた腰は何時の間にか、広島の動きに合わせてゆっくりと揺れていた。 「お前はプライドが高いけぇ……誘ったとか、逃げたとか言われるのは好かんじゃろう」 「うる、さい……ッあ――」 「損じゃのう、甘えるのが下手な奴は」  維新からこっち、薩摩や土佐、肥前と共に日本を引っ張ってきたという自負があるせいか、山口は妙なところでプライドが高い。しかし時代は変わり、今ではすっかり本州と九州の連接点に落ち着いた。  広島と福岡の政令指定都市に挟まれた彼が、その取り澄ました顔の下で何を考えているかまではわからない。ただ、政治県としての矜持を捨て去っていないところに、過去の面影を見るのみだ。 「お前は……」 「なんじゃ」 「ン……そう、やって――説教しながら抱くのが、趣味なのか」 「は――説教と睦言の区別もつかんほど無粋とは知らんかったのう」 「どこが睦言だ……」  力なく呟いた山口が、ぶるりと身を震わせる。快楽で潤んだ瞳が、眼鏡のレンズ越しに広島を覗き込んだ。 「甘えるとか――正直、よく判らんがな」 「ふん」 「……何故だか、お前の前だと気が緩む」  山口のその言葉ににやりと笑うと、広島は噛み付くように口付けた。  ふと気が付くと、月は既に半分ほど山の影に沈んでいた。  音量を絞ったテレビからはニュースが繰り返し流れている。画面の端に表示された時刻は、真夜中の三時半を過ぎていた。  広島は小さく溜め息をつくと、軋む身体を起こしてずるずると絨毯の上に座り込み、ソファに背中を預けた。ソファの上ではまだ、山口が眠っている。  いや――眠っているというよりは、意識を失っているというべきか。さんざん泣かせて、挙句の果てに失神させた。目が覚めたら、さぞかし文句を言ってくるに違いない。最も、文句を言うだけの元気があればの話だが。 「――ったく」  汗の引いた身体がべたついて気持ち悪い。腹や下肢は二人分の精液で汚れている。やっぱりこいつ溜まってたんじゃないか……眼鏡のない無防備な山口の寝顔を見ながら、広島はそんなことを考えた。 「気が緩みすぎじゃ、お前は」  ぽつりとそう呟き、広島は煙草を口に咥えた。ソファに預けた背中が擦れて、ぴりぴりと引き攣るような痛みを訴える。行為の最中は気づかなかったが、山口の爪は幾筋もの痕を広島の背中に刻んでいた。  それだけ夢中になりながら――最後の最後で、聞き取れないほど微かな声で山口が呼んだのは。  ――さつ、ま  今の彼らがどんな付き合いをしているかなんて、自分には知る由もない。広島だって今は愛媛と親しくしているのだ。今夜のこれも、山口とは互いに割り切った上でのことだと、そう言いきれる。  ただ―― 「お前はどんだけ、甘えるのが下手なんかのう」  どれだけ思っていても、それは昔のことなのか。昔のことにしなければならないのか。  そう思い切りながらも、忘れることの出来ない山口の不器用さが不憫で――紫煙と一緒に、広島は重い溜め息を吐き出すことしか出来なかった。 −−−−−−−−−−−−−−− 広島あき山口あき愛媛あき鹿児島あきマジごめんなさい 自害!自害!!